「マクロス7」

 

「マクロス7」

 

『『7』のコンセプトは「メカファンからそっぽを向かれる作品」と「空前にして絶後」であり、誰もこのあと真似をしようと思わないものを作ろうと思ったという。』


wikipedia(『マクロス7』)に載っている上記の言葉が、本作を端的に表していると思う。とにかく最初の十話は「このまま見続けるか」という悩みとの戦いだった。特に本作の前に見た『マクロスプラス』とのあまりのギャップに、かなり戸惑ったのを覚えている。

そこで、とりあえずこの作品が作られた背景だけでも知っておきたいと思い、一度中断してストーリーに触れない範囲でwikiに目を通すことにした。それによれば、原作者の河森正治氏には今作の構想の背景に、初代マクロスの劇場版『愛・おぼえていますか』の決着を銃でつけたことへの心残りがあったという。私は初代の劇場版を見てから日が浅いため、その場面も覚えている。だが「銃で終わらせた」という視点は言われるまで気づかなかった。おそらく、その構想の背景を知っているかどうかで、この作品への評価は大分変わってくるのではないかと思う。なぜなら『7』という作品は、熱気バサラという男がしつこいほどに「歌」で結着をつけようとする作品だからである。

『7』がそういった性質を持っている以上、銃や暴力で終わらない結末が用意されているだろうということは予想できたが、問題はバサラが歌うだけで戦おうとしなかった、その理由である。『愛・おぼえていますか』で輝がボドルザーを銃で倒したのは、ある意味当然な行為である。輝は統合軍の軍人で、ボドルザーは倒すべき敵だったのだから。軍人ではないとはいえ、敵前で戦わずに歌うバサラの行動こそ、常軌を逸していると言えるだろう。

作中ではバサラが歌い始めた理由として「山を動かしたかった」という彼らしい動機が明かされているが、彼にそうさせた理由も、ましてやその生い立ちでさえも描かれなかった(再現ドラマはあったが)。戦わないことについても、「撃ち合ってるだけじゃ何も解決しない」といったことを言うだけなのである。ただ、バサラが思い描いているイメージは明確だろう。彼はミンメイのように「歌」で争いを終わらせるというビジョンを持っている。武器に頼らなければ仲間を助けられない状況に陥ったり、いくら歌っても敵に届かないことに苛立ち、自ら攻撃してしまうこともあったが、それでも彼は最後まで歌うことを諦めたりはしなかった。バサラはどうしてそこまで歌を伝えることにこだわったのか。

そんなバサラというキャラクターを考える上でヒントとなりそうなのが、本編の一年後を描いたOVA『マクロス ダイナマイト7』のエンディングである。河森氏が監督・撮影等を務めたこの映像は、インドと思われる地での実写映像を背景にバサラが歌っているという、アニメ作品では珍しい手法を取っている。仮にこの場所をインドとした場合、非暴力を唱えたある人物が思い浮かぶ。「インド建国の父」とも呼ばれる、マハトマ・ガンジーである。

ガンジーは「断食」という手段でインドに吹き荒れる暴力を止めようとした人物である。手段は違えど、「非暴力」の手段で暴力を止めようとしたバサラに重なって見える。これは想像だが、バサラというキャラクターに与えられたのは「歌で暴力を止める」という、ただそれだけなのではないか。だから、バサラがどうしてそうしようと思ったのかという動機付けはあえて省き、ただ「非暴力」を貫こうとするキャラクターに収束させたのではないだろうか。『ダイナマイト7』はもっとも最後のエピソードである。そのエンディングに込められた意味は重いだろう。

戦争とは武力の衝突であり、歌で戦いを終わらせようとすること自体、荒唐無稽な考えである。第十一話で初めて戦場でバサラと歌ったミレーヌは、歌で戦争を終わらせたというミンメイの伝説は、それこそ「夢物語」なのだと悟り、バサラもそれを否定しなかった。歌うことしか考えていないように見えて、彼にも彼なりの葛藤があったのである。『7』は破天荒だが「歌」への態度は一貫しているバサラというキャラクターを通じて、「非暴力」は暴力を止められるかということについて、誠実に向き合おうとした作品だと思う。


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同時進行で制作されたという『7』と『プラス』は、前者は「漫画寄り」、後者は「実写寄り」と設定されていたという(wiki)。それゆえ両者は初代マクロスの世界観を受け継ぎ、可変戦闘機(バルキリー)などの情報を一部共有していても、内容的には似ても似つかない道をそれぞれ突き進む結果となったのだろう。

『マクロスⅡ』もそうだったが、『プラス』もまた初代マクロスの要素を吸い出し、それを基にして新しいマクロスの世界を模索しようとした面が強いと思う。そういった点で『Ⅱ』も『プラス』も、初代マクロスの続編ではありながら内容的にはスピンオフに近い印象を受ける。つまり両者とも初代マクロスの「設定」はあっても、その「ストーリー」は継承していなかった。それに対し『7』はマックスやミリア、エキセドルといった初代マクロスに登場した面々が再登場し、さらにミンメイが歌っている過去のシーンも幾度となく挿入され、ついには「プロトカルチャー」の核心にまで迫るなど、初代マクロスの「続き」を非常に意識した作品作りをしている。

そうやって見ると、同時に作られながら『プラス』はマクロスという世界観の可能性を広げ、『7』は初代マクロスのストーリーを深化させる、そういった方向性の棲み分けもあったように思われる。そして大事なことは、そのどちらがいいということではなく、どちらも初代マクロスの世界を押し広げるという意味で立派に続編たり得ているということである。

前述の通り『7』は意識的にコミカルに描かれている。その雰囲気は私がテレビシリーズの初代マクロスで感じた、戦争を扱っている割にはどこか暢気でコメディタッチな雰囲気に似ていると思う。まさに「明るいマクロス」である。ただ、初代マクロスには圧倒的な戦力を有するゼントラーディとの戦争があり、さらにマクロスが帰るべき「地球」という場所でさえ、一度は焦土と化している。そこには絶望的な「悲壮感」が漂っており、そのため死が身近にある印象だった。そして、だからこそ宇宙へ「文化」を広げるという人類のミッションが、希望にあふれるものに見えた。

だが『7』にはそこまでの悲壮感はない。ゲペルニッチを筆頭にしたプロトデビルンたちは確かに脅威であり、危機感も分かるが、『7』の持つ軽快な雰囲気が戦闘シーンまで緊迫感のないものにしてしまった印象があるのも確かである。私個人はそれはそれで楽しんで見ることもできたが、人によっては戦争を軽く扱っている風にも受け取れるだろう。そういった点で、見る人によって好みがはっきり分かれそうなのは想像に難くない。

思うに『7』という作品は、最初から視聴者の激しい好悪感情を計算に入れて作られたのではないか。前述のガンジーはその非暴力の姿勢で多くの共感を呼んだが、ムスリムへのすり寄りと受け取った人々からの反感も生み出した。思想を貫こうとすれば、必ずそういった反発にも突き当たるものだろう。多くの作品が人に好かれようとする中で、嫌われそうなことをあえてする作品はなかなかない。ましてやマクロスという人気作の続編で、そんな「冒険」をあえてする必要もないはずだ。そこが本当の意味で『7』の「空前絶後」な部分ではないか。


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作中、高圧的な軍人バートンがミンメイへの尊敬の念を口にしたり、「ミンメイマニア」を自称する千葉軍医が彼女の功績を熱く語るなど、『7』の世界でミンメイは伝説の存在として、三十五年経っても、みんなが彼女を誇りに思っていることが分かる。私はそういうシーンに、『7』の初代マクロスへの、続編という枠組みを抜きにした敬愛を感じるのである。ただ、個人的にはミンメイばかりでなく未沙について語る人もいてほしかったが・・・。

『7』は本編だけで全四十九話、番外編(全三話+劇場版)、OVA(全四話)とかなりのボリュームである。この内容をこれだけのスパンで描くことも、熱量を最後まで維持することも並大抵のことではなかっただろう。そこにはマクロスの続きを描くというプレッシャーもあったはずである。お気楽なノリとは裏腹に、込められている問題提起も重いものがある。私もまさかアニメのレビューでガンジーにまで言及することになるとは思わなかったが、そんな尖った部分も含めて『7』の魅力だと思う。最初こそどうなるか分からなかったが、清々しいほどに走りきった作品で、見終わってみて素直に「よかった」「楽しかった」と思えた。


余談だが、「花束の少女」というアイデアは非常によかった。ストーリーにまったく関わりのない、ただ花束を渡そうとするだけのキャラクターを応援したくなるような作品はなかなかないだろう。そんな遊びは許されないような雰囲気が、現在のアニメにはある。何か萎縮しているような、完璧じゃないといけないような、そんな息苦しさ。この『7』を見ていると、何かすごく暖かくなる。日本アニメにとってとても大事なものが、この作品にはあるような気がする。

 

第十話

『気持ちいいんだよ、雨が・・・もう少し、こうしていさせろよ』


第十一話

『私、分かったような気がする。リン・ミンメイの物語って、作られた伝説よ。時が過ぎていくうちに誇張されただけの、おとぎ話なのよ。いま作っているドラマのようにね』


第十六話

『忘れましたか? 私はかつて、歌によってカルチャーショックを受けたゼントラーディの人間ですよ』


第二十五話

『ミレーヌさん、悔しいが・・・バサラと歌っているあなたは、どんな時よりも輝いて見えます』


第二十九話

『音が聞こえたのではない。心が、プロトデビルンを動かした』


第三十二話

『地球を救ったあのスーパースター、リン・ミンメイでさえ、デビューした当時はただのアイドル歌手だったのだ。私は彼女が新人の時から生で見ていた。彼女は歌を重ねていくにつれて次第にパワーを発揮し始め、やがて戦争を終結させるほどのすごい歌手となったのだ。可能性は誰でもある。それを引き出すのが我々プロジェクトの使命だ。初めから諦めたような発言はするな』

『なぁ、バサラ。お前はがむしゃらに歌ってきた。だけどな、お前がどんな気持ちで歌おうと、それをどう受け止めるかは、聞いた人間の勝手だぞ。まぁ、それで納得するお前じゃないだろうが、それは事実だ。少しは考えてみてもいいかもな。何のために歌ってきたのか、何のために歌うのか』


第三十七話

『異種族の血の混じり合いし者、すなわち平和の証なり』


第四十八話

『パパ・・・私、ファイアーボンバーなの、ファイアーボンバーが生きがいなの! ここで歌わなかったら、今歌わなかったら、今まで大事にしていたことが、みんななくなっちゃうわ!』


第四十九話

『今日こそ動かしてやるぜ! 山よ、銀河よ、俺の歌を聞けぇ!』

 

 

『マクロス7』

放送期間:1994年10月16日~1995年9月24日
原作:河森正治
監督:アミノテツロー
シリーズ構成:富田祐弘
脚本:富田祐弘、大橋志吉、隅沢克之、アミノテツロー
製作:毎日放送、ビックウエスト


『マクロス7 銀河がオレを呼んでいる!』

公開日:1995年10月7日
監督:アミノテツロー
脚本:河森正治
製作:津田義夫、高梨実、春田克典
制作会社:ハルフィルムメーカー、スタジオジュニオ


『マクロス ダイナマイト7』

発表期間:1997年12月18日~1998年7月25日
原作:河森正治
監督:アミノテツロー
シリーズ構成:河森正治
脚本:富田祐弘
製作:ビックウエスト、バンダイビジュアル、毎日放送、小学館


(wikipedia:マクロス7

 

 

「超時空要塞マクロスⅡ -LOVERS AGAIN-」

 

「超時空要塞マクロスⅡ -LOVERS AGAIN-」

 

今作はテレビシリーズ『超時空要塞マクロス』誕生十周年記念として制作された。舞台は前作から八十年後であり、前作のキャラクターは登場しない。唯一「ミンメイ」という名前だけが作戦名として出てくるのみである。ただ、「マクロスⅡ」というだけあって前作の設定は各所にちりばめられている。特に「メルトランディ」の存在や、マルドゥークの使う言語から察するに、テレビシリーズというより劇場版を基点と位置づけているのではないかと思う。

内容は残念ながら微妙な出来だったと言わざるを得ないが、この短さでは無理もない気もする。前作の内容からその要素を明確にし、それを元に新たな「マクロス」を作る。目指しているところは悪くなかったのにと、もったいなく感じる。もっと長いスパンで見てみたかった。

短いストーリーだが、最終回のエンディングは良かった。ヒビキが撮影してきたイシュタルの映像が続き、最後まで残ったマクロスの司令室をバックに、シルビーとイシュタルのツーショットで終わるラストは、制作陣が「マクロスらしさ」を探求し、マクロスファンを納得させたかったという気持ちの現れのように感じられた。

 


第一話

『統合軍は無敵なんかじゃないんだ。宇宙は広い。地球が宇宙に君臨する最も優れた星だなんて考えるのは、大間違いなんだ』


『地球が最も優れた文化を持っているだと? ふざけるな! 文化が何なのかも分からなくなってやがるくせに、偉そうに言うんじゃねぇ』


第二話

『あの船ね、巨人たちに恋の歌を伝えたの』


第三話

『歌いたい、ラブソングを。マルドゥークに帰って、みんなに聞かせたい』


第四話

『私、許せなかったの。見たでしょ? あのゼントランたちを・・・。確かに、戦いのために生まれてきたのかもしれない。けど、自由を捨てたわけじゃない。人間なの。戦いの道具なんかじゃないわ』


『・・・報告します。地球統合軍バルキリー小隊、シルビー中尉。現在、敵の旗艦内に潜入。健闘空しく窮地に立っております。お世話になった方々に、もし伝わればと、この報告を、残します。・・・つまり、袋の鼠というわけ!・・・・・・ありがとう』


第五話

『私の気が変わらぬうちに行くがいい。イシュタル、あなたは反逆の罪を犯し、私に撃ち殺されたのだ。・・・所詮、生まれが違いすぎた』


『戦いで死ぬ勇気はあっても、負けると告白する勇気がない。敵は意外と近くにいるものだ』


第六話

『ここには人が住んでいた。恋の歌に満ちていたんだわ』

 

「超時空要塞マクロスⅡ -LOVERS AGAIN-」

発表期間:1992年5月21日~11月21日
監督:八谷賢一
シリーズ構成:富田祐弘
アニメーション制作:AIC、オニロ
製作:バンダイ、ビックウエスト、ヒーロー・コミュニケーションズ、毎日放送、小学館